タイカクセンのいえ / Duplex House in Tokito

所在地: 北海道函館市  用途: アトリエ併用二世帯住宅  分類: 新築、戸建  規模: 約150平方メートル 〈約45坪〉

構造: 木造と鉄骨造の併用構造  構造設計: 株式会社梅沢建築構造研究所 担当 梅沢良三

CONCEPT

二世帯住宅とアトリエをかねた建物です。

 

この住宅は、「いわゆる二世帯住宅」という短期的な建物の使われかたを越え、長期的な使われかたを目指して設計しています。

親と子が末永く暮らしたいおもいを何かかたちであらわしたいと思い、長寿と仲良きことの象徴「鶴」をデザインの手がかりにしました。



建物の配置は、北の公園側に2層分の大きさ、南側に1層分の大きさをわずかな隙間ができるように南側の1層分をちょっと傾けて意図的な配置にしています。
あいだに出来たすこしパースのついた隙間は、玄関から庭につながる廊下「散歩道」としました。その散歩道は、室内だけどあたかも「おもて」のような場所となるように、床は大地を連想させるように黒っぽい土の色、室内の壁をあえて外壁と連続した同じ素材、天井(屋根)と建具には透明な素材をしつらえました。散歩道のような廊下は、外出をあまりすることが出来ない父や兄の暮らしに、外の雰囲気やたとえば暖かい空からの日光を感じてもらえるような空間になっています。

特徴のある屋根のイメージは、正面の道路からは鳥が羽ばたくように見え、庭側からは翼を休めているように感じられるようにしました。鳥の翼の動きのような表現をこころみ、
室内も外の形状をそのまま表す勾配がある部屋となっています。羽ばたくような方には天井の高いアトリエと仏間を配置し、翼を休めているような方には居間と寝室を配置しています。また外観の仕上げ材はすべてプリーツのような波板(ガルバリウム鋼板)とし、シルバーの丸いビスを水玉模様のように特徴的な配置にしています。その屋根や壁は光が当たると波板はストライプ状にゆるやかに影ができ、シルバーの丸いビスはより輝きます。それはゆるやかに繋がっていく影や光の陰と陽とある点状の輝きが人生を表すのではないかともおもい選択しました。

 

計画にあたって両親からの要望は、子供の頃に暮らしていた和風の平屋と長い廊下のある間取りが懐かしくて、そのような暮らしを再びしてみたいということくらいでした。希望をかなえるべく、親世帯のリビングダイニングは、二層分のボリューム側の一階に配置していますが、天井の梁をあらわしにし屋根の小屋組のように感じられるようにしました。寝室と和室は、希望どおり和風の平屋とし天窓をもうけ、より空を近くに感じられるようにしています。そのことと「おもて」を感じられる長い廊下「玄関から庭へつながる散歩道」を組み合わせた結果、細長いふたつの大小のボリュームがあり中央にさながら「おもて」を感じられる廊下があるプランにたどりつくことになりました。この大きいボリュームと小さいボリュームは、親鳥と小鳥もイメージしています。

 

構造設計は、超長期住宅/ 住宅シェルター論の構造家 梅沢良三先生に協力をしていただき、資源・環境・エネルギーの側面も考慮し、この家も高耐久・高耐震性能を得ることができました。外周部のみで成り立つ構造を提案していただき、部屋と部屋のつなぐ間仕切り壁はすべて自由に配置できるようになっています。その自由な壁は、すべて白い色で表現しています。二階の床も構造耐力上、あってもなくても構わないので同じく白い色。外とつながる開口を切り取ったところも、白い色。全ての窓は白い木枠で外とつながり、各部屋は白の空間がつないでいきます。白の空間は一度気持ちをリセットし、次の部屋にお出かけてしていくような効果もあります。素材そのもののところには過ぎた時や記憶を表現し、白く表現したところは未来を連想させるように。
僕は白い色をみていると、いつも心の中がうつしだされ新鮮な思いを呼びおこされる気がします。この家は、一世代だけの使用ではなく、数世代がライフスタイルにあわせて間仕切りを自由に変えられることも視野に入れてデザインしています。つまり「タイカクセンのいえ」は、未来へとつながっていく未完の住宅といえます。そして、屋根の棟を対角線に結んだことで、外も中も居場所をすこし変えると様相がすこしだけ変わることが感じられます。屋根勾配のかたちがそのままあらわれる内部空間は一見動的な空間に感じられますが、静かな時間が過ぎていく外と中の融合された気持ちのいい空間になっています。

© Photograph アトリエフク

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